認知症は脳の老化現象です。
まず理解しなくてはいけないのが、認知症は特別な「病気」ではないということです。正常な認知機能(記憶や判断を行う脳の機能)が何かしらの原因で低下し、生活に支障をきたすようになった「状態」です。遅い早いは別として誰しも脳にアミロイドβというたんぱく質が溜まり、アルツハイマー型の変性はやって来ます。だから、認知症は「病気ではなく老化現象の一つ」なのです。
あくまでも私の観察によるのですが、頭を使っている人の方が脳の機能は落ちません。つまり身体だけでなく頭も使い続けたら、本来80歳で認知症になるはずの人が、83歳とか85歳まで発症を遅らせられることはできると考えます。逆に、定年後何にもせずにぼーっとして頭を使っていない人は、本当は80歳でボケるはずなのが75歳でボケてしまう、ということは起こり得るのです。
膨大な数の高齢者の脳のCTやMRI検査画像をチェックし、毎月8人ほどの脳の解剖結果をみるにつけ、脳の中で最初に老化が始めるのは前頭葉であることを確信しました。
脳の研究者の間では、かなり早い時期から、脳は前頭葉から縮み始めることが知られていました。
前頭葉はどのような役割を果たしているのでしょうか。脳の大部分を占める大脳は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分かれています。前頭葉は、おでこの裏から頭頂部にかけて位置し、大脳の4割を占めています。重要な役割は、意欲、思考や創造性、集中力、感情のコントロール、コミュニケーション、変化への対
応などです。
前頭葉は脳の中で最も早く老化し、早い人だと40代くらいから前頭葉の萎縮が始まります。認知症では、側頭葉にあり記憶をつかさどる海馬が萎縮しますが、それよりずっと前に前頭葉は萎縮します。そうすると、創造性や意欲が低下します。50、60代になって本格的に前頭葉の老化が進行すると、感情をコントロールする力が衰えます。
脳の老化を遅らせるには、前頭葉を鍛えることを常日頃から意識すべきです。意識的に鍛えれば、60歳になっても70歳になっても若い人たちに負けない可能性があります。
そんな前頭葉を鍛える「心構え」は3つ。
まず、「想定外」を意識的に求めること。前頭葉が鍛えられてない人は変化を受け入れにくくなるので保守的になります。逆に、グルメ情報サイトの「食べログ」を信じるのではなく、新しい店に飛び込んで自分にとって「うまい!」かどうかを確かめてみることで前頭葉は働きます。なんなら〝自分ログ〟を作るぐらいの意欲を持って下さい。これは、二番目の「やってみないと分からない」に通じます。そして、3つ目。マジョリティが言うことは全部正しいとは限りません。多数派の考えに疑問を呈する「へそ曲がり」になって下さい。
これらをまとめると「変化」を恐れず、果敢にチャレンジする、です。
前頭葉を鍛えてボケを先送りするには、「変化のある生活」をするのが一番です。日常に変化をつけることを習慣にして下さい。
年を取って会社を辞めると、自由に使える時間がたっぷり生まれます。でも、特に男性に多いのですが、定年後、それまで地域とのつながりがほとんどないので何をしていいか分からず家でぼーっとしていたり、料理ができずに家族が作ってくれるのを待っていたり、それで嫌がられたりという生活。心当たりはありま
せんか。
思い切って新しいことに挑戦する意欲を抱いて下さい。料理を自分で作るのもいい。料理を作ることは、メニューを考え、材料を揃えて、調理手順を考えなければなりません。味付けや火加減なども調整するので、脳をいろいろ働かせなければなりません。手先も使うので、格好の「脳トレ」です。
この本でこの本で特に注目したのは、テレビと新聞です。本書を手にとっていただいた方は、新聞は自宅でとって読むのが日課。テレビは、1日6時間以上見ている方も多いと推察します。
テレビについて私はこれまで、「テレビ番組の質は劣悪。視聴者の思考を偏らせ、認知を歪めるもの以外何ものでない」などと罵倒し、問題点をあばいてきました。「テレビを捨てよう」とも説いてきました。でも、それは制作を糾弾しているのであって、視ている方々が悪いというのではありません。
そこで、私の経験をもとに、生活に欠かせない身近な存在である新聞とテレビとの付き合い方から、それを使って老いやボケを遅らせる方法をお伝えいたします。
難しく考えなくもいいのです。せっかくテレビを見たり、新聞を読んだりするのだったら、本書を参考により有益に楽しみましょう。